試練の雪山

「起きられよ、主殿!!」
そう聞こえると同時に太助の体は何かふわふわしていて冷たいモノの上に投げ出された。
「つめて〜〜〜」
そのあまりの冷たさに飛び起きるパジャマ姿の太助。
焦点の定まらない視界がとらえたモノは、白、白、白。
視界はまさに白一色。
「主殿!!そのままでは風邪を引いてしまう。とりあえず、着替えるがいいだろう。」
振り返るとそこに完全防寒の紀柳の姿と太助の部屋よりも大きそうなアーチ型のテント(太助のベット入り)があった。
・・・完全防寒???
改めて周りを見ると、そこは目を刺すような朝日に映し出された一面の銀世界だった・・・。
部屋で寝たはずだった太助は、なんでこんな所にいるんだろう・・・と思う間もなく、とりあえず地面の雪を巻き上げて太助にぶつける風の寒さから逃げるためにテントの中に駆け込み、入り口を閉める。
そこには太助の普段着とスキー用の防寒着が綺麗に折り畳まれて置いてあり、太助は若干濡れて冷たくなっているパジャマを脱ぎ捨て急いでそれに着替えはじめる。
そうしていると、テントの外から紀柳の声が響く。
「今日は主殿が今までの試練で如何に成長をされたかを調べるためにこのようなところにつれてきた。」
「このような所って、ここ何処なんだよ、紀柳。」 とりあえず、普段着を着込みながら太助が訊く。
「ここは北海道の大雪山というところだ。」
「ほっ、北海道!?」
太助が驚くのも無理はない。
太助の住む町から北海道まではゆうに数百Kmと離れている。
なのに唐突に「北海道だ」と言われても信じられないもの無理はないだろう。
「主殿が眠っている間にベットごと運ばせてもらった。」
太助は唖然としながらも、手は徐々にスノーウェアを着込んでいった。

着替えが終わった太助はテントの外に出た。
すると紀柳は
「万象大乱!!」
と、テントをボタンほどのサイズに小さくしてしまった。
そしてそれをポケットにしまい込む。
「で、一体どうやって、俺の成長の度合いを調べるって言うんだい?」
「私と簡単な勝負をしてもらう。」
「勝負?」
「そう。私が今首に巻いているマフラー。これをどのような手段を使ってもいいから主殿が私から奪うことが出来れば主殿の勝ちだ。」
そういわれて紀柳の姿を見直してみると、確かに紀柳の赤毛に良く映える蛍光色の黄色のマフラーが巻かれている。
「私は主殿につかまらないよう全力で逃げ回る。ただし、私は空は飛ばない。ルールは把握できたかな?主殿。」
「ちょっとまって。もし俺がマフラーを取れなかったらどうなるの?」
「その時は取れるまでこの雪山に居てもらう。」
「げっ!!」
「それでは、はじめるぞ主殿!! 万象大乱!!」
紀柳のかけ声に呼応して、太助の頭上にあった木のから大量の雪が枝ごと落ちてくる。
「うそ〜〜!!」
情けない事を言いながらもすんでの所で避ける太助。
それを横目で見ながら深い雪をものともせずダッシュで林の奥に入っていく紀柳。
「よーし、絶対マフラーをとってやるからな。」
言葉とは裏腹に深い雪に足を取られて思うように歩けない。
紀柳の影はどんどんと小さくなるが、見失うか見失わないかと言うところでその小さくなるのが止まった。
そしてある程度太助が追いつくとまた走り去ってしまう。

そんなことを続けること小1時間、いい加減、太助も息が上がって立ち止まった。
息を整えながら空を見上げる太助の目に針葉樹の隙間から見える青空とそこを飛び回る一羽の鳥の姿が映った。
「空でも飛べればなぁ」
そんなことはもちろん出来ない事は分かっているが、ついつぶやいてしまう太助。
気が付けば、紀柳の姿は見えなくなっている。
しかし、ここは雪山。例え姿は見えなくとも足跡を辿れば必ず追いつける。
そして、太助はまた紀柳の追跡を再開する。
その足取りはスタートの時とは比べものにならないぐらい早くなっており、太助も今までがむしゃらに歩いていただけでは無かったことを裏付けていた。
「さすがは主殿。もうこの雪山になれられてきたか。ならば、試練を第二段階にせねばなるまい。」
その太助の足取りを樹上からひっそりと見つめていた紀柳は、立ち上がると木々の枝を軽やかに渡りながら自分がつけた足跡の終端まで移動し、ぴたりと器用に最後の足跡の上に着地をするとさらに先に向かった。

「なにぃぃ〜〜」
つい数分前に紀柳が樹上から降り立った地点にまで到着した太助は、林の中に唐突に現れた大きな雪壁を見つけた。
しかも紀柳の足跡はその雪壁の向こう側に続いている。
「くそっ、ここを行けって言うことか。」
誰に言うわけでも無く悪態を付いた太助は、仕方が無くその壁に挑んだ。
そのあとも、紀柳が仕掛けた試練はあとを立たなかった。
例えば、雪を極限まで大きくすることで生まれた雪の結晶の形をした氷の板が辺り一面を埋め尽くしていたり、川の氷を斜めになるように調整して大きくした氷の滑り台等が絶え間なく待ちかまえていた。
そして、何もないと思って油断をして歩いていると、いきなり雪の深みにハマり、咄嗟に近くに生えていたツタをつかまなければ危うく動けなくなる所だった、という事もあった。
「一体いつになったら紀柳に追いつけるんだ?」
無論、その答えをくれる人は誰もいない。
気が付くと、紀柳の足跡は今度は沢の方に向かっているようだ。
「・・・・勝負に出てみるか」

紀柳は悩んでいた。
「この沢を利用して雪がなだれ込んでくるワナを作りたいが、あまり雪をふやすと本当に主殿が埋まってしまう。かといって、手加減すれば簡単によけてしまうかもしれないし。」
そうぶつぶつ言いながら、しばらく考え込んだ末、
「やっぱり、手加減なしで行こう。」
そう言い、手際よくワナを準備しはじめる。
そしてものの2分足らずで、ロープに引っかかると大量の雪がなだれ込んでくるワナができあがった。
「そろそろ主殿もこの近くまで来ているだろう。急いで次のワナの作成に掛からなければ。」
そういうと、まるで何十年も雪山で暮らしてきたかのような神懸かりな足取りで先に進みはじめる。
紀柳はその使命を果たすために並々ならぬ体術を身につけており、その気になれば雪道をまるで舗装された道路のように歩くことなどたやすいことであった。

少し歩くと急に辺りが開けた。
白銀の雪の照り返しを受けて、思わず目を閉じる紀柳。
そして、目を慣らしながらゆっくりと開くと左にあった山がとぎれていて、そこに雄大で、だけれど純白で何処かしら清楚さを感じさせる山並みが見える。
「・・・綺麗だ」
思わず、 感嘆の声を漏らす紀柳。
しばらく呆然としてその風景を見ていると、唐突に背後から気配が迫って来た事に気が付いた。
反射的に振り返るとそこには山側から転がり落ちるように近づいてくる太助の姿。
「なっ!!」
完全に不意を付かれる形となった紀柳は動けない。
「キリュウ〜。捕まえた〜〜〜」
と大声で叫びつつ、まるで抱きつくような形で紀柳にしがみついた太助は、紀柳もろとももつれ合うように倒れ込んだ。
マフラーを守ろうとする紀柳。
しかし、太助の下に入り込む形となっているために上手く動けない。
太助の手がマフラーに伸びる。
ここまでか!! と紀柳が思った刹那、 山側から

ゴゴゴゴーー

という地響きが聞こえた。
思わずそちらを見る二人。
そこには動き出す山があった。
いや、正確には雪が動いてこちらに来ているといった方が正しいだろう。

雪山+大声=雪崩

その方程式が解けたときには既に雪崩は二人を飲み込んでいた。

***

「・・・紀柳、しっかりしろ?紀柳!!」
太助の声が紀柳の意識を緩やかに現に呼び戻す。
「主・・殿・・・」
目を開くと太助の安心した顔が紀柳の視界一杯に飛び込む。
「良かった、気が付いて。」
紀柳は太助の膝枕の上にいた。
その事実に気が付いた紀柳は思わず顔を真っ赤に染めながら、慌てて立ち上がり、逃げるように数歩退く。
「それじゃ、勝負の続きを行こうか。」
はっ、として自分の襟元を見るとそこにはまだ黄色いマフラーがしっかりと巻いてあった。

私が気絶している間にいくらでも奪い取る機会はあったのに・・・・

紀柳は太助に近づくとおもむろに自分の首からマフラーを取り、太助の首に巻き付けた。
「えっ!!」
「勝負は既に主殿の勝ちだ。」
そして紀柳は少し離れた場所で短天扇を人の乗れる大きさにして、太助を振り返り笑顔で言った。
「帰ろう、主殿!!」

短天扇に乗って飛び立つと、そこには大自然が織りなす芸術である、えもいわれぬ素晴らしい白銀の風景が広がっていた。
思わずそれに見とれる太助と紀柳。
しばらく黙ってその風景を眺めていたが、太助が話を切り出す
「なぁ、紀柳。」
「何だ主殿?」
「また、ここにこないか? 今度はみんなで。」
「私は寒いところは嫌いだ・・・・だがこのような美しいところならばまた来たいものだな。」
「でも、今度は試練は勘弁してくれよ。」
それを聴いて紀柳はほほえむ。
「あっ、そうそう。マフラー返すよ。寒いだろ?」
太助はマフラーを取ると紀柳に渡す。
「えっ、あぁ。すまない主殿。」
紀柳は素直にマフラーを受け取り、それを首に巻き付ける。

主殿のぬくもりであったかい・・・

思わずまた赤面してしまう紀柳。
だが、それを見つめる影が、二人の後方数Kmにいた。

「き〜〜〜、なんかすっごくいい雰囲気じゃない。」
コンパクトから、その光景を見ていたルーアンが言う。
「まったく、あたし達がこうやって付いてきていることに気が付いてないはずは無いのに・・・いい度胸よねぇ、シャオリン。」
「ご苦労様、天高。」
「って、人の話を聞きなさい、あんた!!」
「あっ、すみません。今、ちょうど天高が戻ってきたものですから・・・」
「まったく、そんなの飛ばしてたー様を見張ってなくても、あたしのコンパクトだけでも十分なのに。」
「ですが、太助様に間違って何かあっては・・・」
「あ〜、はいはい。それより、あの子とたー様がこれ以上いいムードにならないうちにちょっかい掛けに行くわよ!!」
そういって、陽天心絨毯の速度を上げるルーアン。
「あ〜ん、待ってください。軒轅お願い。」
軒轅は一鳴きすると、ルーアンに、そして太助達に追いつくべく風を切った。

おしまい


あとがき[PostScript] −言い訳とも言う−

久々に正当派な小説を書いてみました。
いや、なんて言うか最近お気に入りのGRAY「WinterAgain」をエンドレスで聴いていたらふと浮かんだもので、3時間ほど突貫で書いてしまいました。
感想などいただけるととっても嬉しいです。


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