『宿り木にお願い!』

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥」
 太助は必死に呼吸を整えようとしていた。ズボンの膝は切れ、Yシャツの袖は左肩から先が無くなっている。
「‥‥‥‥万象大乱」
 低い声で唱えたキリュウの手に、巨大化したつまようじが握られる。
 ひと呼吸おいてから流れるようなサイドスローで繰り出された巨大つまようじは、うなりを上げて太助目掛けて流線を描いた。
「くっ!」
 太助は、もつれ気味の足を引きずるように飛んで来るつまようじを避けた。丸太のような、つまようじが巻き起こす風圧が頬を容赦なく叩く。
 ずどぉぉぉんっ。
 ものすごい音と共に校庭の端にあるサッカーゴールを巻き込んで、つまようじは地面に突き刺さった。盛大に巻きおこった土煙を思わず見上げてしまった太助がキリュウに目を戻すと、すでに次の攻撃を放っていたキリュウが薄く笑う。
「万象大乱」
 下から上へ鋭く弧を描いた短天扇が一閃すると、元のサイズまま放たれていた五本の小さなつまようじが、みるみる巨大化して太助を襲う。
 低い軌道を等間隔で飛んでくる先端を見た太助の顔に狼狽の色が浮かんだ。
「‥‥!!」
 最初の巨大つまようじをやり過ごして、気を抜いてしまった太助はこの時間差攻撃に気付くのが遅れた。ナイフのような刃物ではないにしろ、巨大化したつまようじの先端は十分に殺傷能力がある。予測外の攻撃と恐怖に、太助の足は筋肉が強張って動けなくなってしまっていた。
 −− だめだ、避けられない! −−
「‥‥万象大乱」
 堅く目を閉じた太助の顔に、元のサイズに戻されたつまようじがチクチクと当たる。
「主殿、気を抜くとあぶないぞ。今日の試練は終了だ」
 その場にへたり込んでしまった太助は返事の代わりに力なく手を上げると、その場にひっくり返った。

「シャオ、終ったみたいだぜ‥‥あ」
 校舎によりかかって試練を受けている太助を見ていた翔子は、シャオに言ったつもりだった。しかし、隣で見ていたはずのシャオの姿はすでに無い。
 ひっくり返ったままの太助の元に駆けていくシャオの後ろ姿を見ながら翔子は、ちょっと困った顔で微笑んだ。
「わざわざ、あたしが言うまでもないか‥‥さぁてと‥‥寒いし、帰るか」
 校舎から背中を離した翔子は、足元に置いていた鞄に手をかけた。その横を短天扇をたたみながらキリュウが通りかかった。
「あ、キリュウ」
「なんだ、翔子殿」
「ちょっと頼みがあるんだけどさ‥‥」
 太助とシャオの方をちらっと見た翔子は、とびっきりのいたずらを思いついた子供のような顔をして、キリュウに小さく手招きをした。

「太助様」
 真上から声をかけられた太助はシャオからタオルを受け取りながら、ようやく半身を起した。
「サンキュー シャオ」
「大丈夫ですか? 何処かケガしたりしてないですか?」
 心配そうな顔で、尋ねるシャオ。
「ああ、平気だよ。それより‥‥」
 さっきまで突き刺さっていたつまようじは、キリュウが元のサイズに戻したため、影も形も見えないが、ひっくり返っているサッカーゴールと大穴が開いている校庭を見て太助はため息をついた。
「あれ、なんとかしないとな。これも試練か‥‥」
 ようやく立ち上がった太助はズボンをパタパタとはたくと、サッカーゴールに向かって歩き始める。
「お手伝いします。来々、羽林軍!」
 支天輪から元気よく飛び出して来た小さな建築土木のプロフェッショナル達は、手際よく校庭の修復作業を開始した。

☆☆

 夕方の街は赤と緑のカラーできらびやかに彩られていた。普段は白い服でファーストフード店の前でにこやかに笑っているトレードマークおじさんまでが、いつもと違うヒゲを付けられ、赤い服を着ている。
 イルミネーションを施された街路樹が並ぶ歩道を花織は、おもちゃのいっぱい入った袋を抱えて歩いていた。
「これで、今年のパーティーの準備は、ばっちりぃ!」
 とてもうれしそうな顔で、花織はおもちゃの袋を抱きしめて小さく跳ねた。
「クリスマスはこれで、七梨先輩と遊びまくりねっ」
 さらに二回、三回と石畳の歩道の上でぴょんぴょん跳ねる。
「なーに、あれ? 変な娘」
 通りすがりのカップルの女の方が、彼氏の腕を引き寄せながら笑った。
「あ‥‥‥」
 繁華街の歩道の真ん中でにこにこ笑いながら、ぴょんぴょん跳ねていれば嫌でも注目を集めてしまう。我に返った花織は、少し赤い顔をして足早にその場を離れた。

「もぉ、はずかしい」
 公園のベンチに腰掛けて、花織は白いため息をついた。
「でも‥‥‥カップルばっかり‥‥」
 いつも輝きを失わない顔に、めずらしく憂いの表情が浮かぶ。小さな噴水の周りのベンチは、右を見ても左を見てもカップルばかりであった。
「あ〜あ、あたしも、みんなとパーティーじゃなくて七梨先輩と二人きりのクリスマスが過ごしたいなぁ‥‥」
 気持ちを飲込むのと引き換えについたため息をきっかけに、花織はベンチから立ち上がろうとした。
「花織さん。こんな所で会うなんてめずらしいですね」
 声の主を探した花織の前に、脇に本屋の袋を抱えた出雲が立っていた。
「出雲さん‥‥」
「どうしたんですか? こんな所に一人で座って」
「いえ、別に‥‥買い物帰りにちょっと一休みしてただけですから」
 花織は、ベンチから立ち上がった。
「そうですか? それにしてはずいぶん寂しそうな顔してましたよ」
 出雲は立ち上がった花織の肩に手をかけてベンチに座らせると、さりげなく自分も隣に座った。さすがはナンパ王の名を欲しいままにしている男である。女の子の扱いにはソツがない。
「原因は太助君ですね」
「‥‥‥‥」
 いきなり心の中を見透かされた花織は、うつむいてしまった。
「‥‥だって、七梨先輩。シャオリン先輩の方ばかり向いてるんだもん‥‥あたしなんか‥‥」
「めずらしく弱気ですね。いつもはもっと元気なのに」
 自分の中の影の部分。いつも元気にふるまっている自分とは別に膝を抱えたまま、今にも泣き出しそうな自分が隠れていることを花織自身、認めたくなかった。でも、時々言い様のない不安に襲われるのだ。いくら信じて念じて、想っても想っても絶対に七梨先輩は、私の方を見てくれないんじゃないかって‥‥
「そ、そんなことないですよ‥‥そんなこと‥‥」
 花織は弱くなっている自分を出雲に気付かれないように笑顔を作ろうとしたが、上手く笑うことができない。笑って見せようとすればする程、逆に涙が出そうになった。
 出雲はごく自然に肩に手を回した。泣き出しそうな女の子を前にしても、出雲は少しもうろたえたりはしない。この辺はさすがと言うか、習性と言うか‥‥
 いきなり肩に回った手にびっくりしながら、花織は出雲の顔をまっすぐに見た。
 つい悪い癖を出してしまった出雲は内心で、まずかったかな‥と思いながらも、にこやかに花織の瞳をかわして話し始める。
「ひとつ、良いことを教えてあげましょう」
 出雲は公園の向こうに見えているデパート前の巨大なクリスマスツリーを指した。
「クリスマスツリー?」
「宿り木って知ってますか? クリスマスツリーに飾り付けられた宿り木の下に立った女の子には、キスをしてもいいっていう決まりがあるんですよ」
「ええっ!? キ、キス‥‥‥ですか?‥‥」
 キスというインパクトのある単語を聞いてちょっと赤くなった花織は、大声を出しそうになった。そして、疑わしそうな目で出雲を見る。
「あ、その目は信じてませんね。本当ですよ、北欧とかイギリスの風習です」
 花織の疑い度は半分になったものの、どうにも信じられない。この手を使って、今までに何人の女の子をモノにして来たのだろう? 肩に回ったままの手を見ながら花織は本気でそう思った。
 出雲は花織が何を考えているかを察したようだ。ちょっと困った顔で続ける。
「スウェーデンではキスをしてもいいじゃなくて、しなければならないって事になっていて想いの相手を宿り木の下に誘って告白を‥‥」
 出雲はそこまでで、言葉が続けられなくなってしまった。
 元気を回復した花織が、乙女チックモード全開で瞳をキラキラさせていたからだ。
「そっ、それじゃぁ。七梨先輩を宿り木の下へ誘えば‥‥」

 きれいなイルミネーションに飾られた大きなクリスマスツリーが、幻想的に輝いている。
「花織‥‥」
「七梨先輩‥‥」
 花織の後ろには、淡い黄色をまとった半透明の小さな実が付いた小さな枝が飾り付けられていた。宿り木である。
 太助が花織の肩に手をかけて一歩近づくと、花織はしずかに目を閉じた。
 ゆっくりと二つの唇が近づく。

「きゃぁぁぁぁぁっ やだぁ、もーぉ」
 真っ赤になった顔を両手で包むようにして、体ごとふるふると左右に振る。
「か、花織さん、ちょっと花織さん。 聞いてます?」
 明後日の方角を向いたまま、瞳になにも写していない花織に不安になった出雲は肩を揺さぶって声をかけた。
「え?」
 ようやく出雲の呼びかけに気付いて、しあわせな幻想から現実に戻ってきた花織は少し残念そうな顔をした。
「いいですか、花織さん。宿り木の飾りは後であげますから、しっかりがんばってください」
「は、はいっ」
 花織は表情をパッと輝かせた。
「それと、この事はルーアンさんには内緒ですよ。あの人のことですから、こんな話を聞いたらクリスマスツリーに陽天心をかけて、めちゃくちゃになっちゃいそうですから」
 勢い良く、こくこくと頷く花織。
「出雲さん。ありがとうございますっ! あたし、がんばります! それじゃぁ」
 さっきまで半べそをかいていた女の子は何処へやら、花織はぺこんとお辞儀をすると、すっかり元気になって駆けて行った。
「これで、あの子が太助君を押さえていてくれれば、今度こそシャオさんを‥‥」
 出雲には出雲の思惑があるようだ、かなりしたたかな策士ではある。

「あやしい‥‥‥」
 鯛焼きをくわえたまま、公園入り口の陰から花織と出雲の様子を見ていたルーアンはつぶやいた。
『夕方五時からタイムセール! 鯛焼き半額!!』
 朝刊に折り込まれたチラシに踊っていた文字に、朝からワクワクしていたルーアンは、山ほどの鯛焼きを詰めた大きな袋を抱えて、ほくほく顔で公園の前を通りかかったのである。
「カップルばかりの公園に、奇妙な取り合わせ‥‥」
 噴水の所のベンチに並んで座る出雲と花織の姿を見つけるや、思わず身を隠したルーアンは歩道に伏せて、道行く人々の注目を集めながら様子を伺った。
 鯛焼きの背びれをくわえて歩道に伏せている姿はまるで、つい先刻、魚をせしめてきた野良猫のようである。
 騒がしい上に遠くて、なんの話をしているのかは聞こえないが肩に手を回したりして、ただならぬ雰囲気なのは見てとれる。ルーアンは思わず息をひそめた。
 花織が駆けて行ってしまい、出雲もその場を離れたのを見てルーアンは、くわえていた鯛焼きを一瞬にして胃の中に納めた。
「ライバルが減ったか‥‥? う〜ん‥‥」
 路面に肘を付いて考え込む。
「ちょっと、あなた。そんな所に寝転がって、具合でも悪いのか?」
 お巡りさんだった。
「えっ‥‥あっ、なんでもないんですのよ。ほほほほほ‥‥」
 引きつった笑いを浮かべて立ち上がると、ルーアンはじりじりと後ずさってその場を離れようとする。
「ちょっと、あんた」
 お巡りさんは後ずさるルーアンの腕をつかもうとするが、ルーアンは身をよじってするりと避けた。
「この鯛焼き、あなたのじゃないのかね?」
 ルーアンの腕を掴みそこねたお巡りさんは、ひと呼吸おいて大声で言った。
 逃げようとしていたルーアンが反射的に振り返ると、お巡りさんは公園の門柱の所に置き去りにしてあった鯛焼きの袋を指さしていた。
 猛ダッシュで鯛焼きの袋をひったくると、ルーアンはその場から逃げ出した。
「なんだったんだ、いったい? 新手のパフォーマンスか?」
 お巡りさんは、その場で首を傾げたまま立ち尽くしていた。

☆☆

「よーし、キリュウ 来ーーーいっ」
 HR終了後、もはや放課後の風物詩と化している台詞を太助は口にした。掃除当番の生徒以外は、三々五々散って行く。
「あ、あれ?」
 いつもならすぐに短天扇に乗って、キリュウが現れるのだが今日は一向に現れる気配がない。
「七梨〜。これ、キリュウから」
 握りこぶしで気合いが入りまくっていた太助の気を削ぐような口調で翔子は太助にメモを渡した。
「なんだ? えーと、次の試練の準備をするので、今日の試練はお休みだ。今日はシャオ殿とパーティーの準備をするように‥‥っておい」
「ん?」
「前半は確かにキリュウの字だが、後半はおまえの字じゃないか!」
「あ、わかっちゃった? やっぱし」
 翔子は悪びれもせずに、しれっと言った。
「山野辺ぇ〜 いったい何を企んでる」
「なぁ、七梨。今日のパーティーじゃシャオと二人っきりには、なれないぜ」
「う‥‥」
 きりっと表情を引締めて言った翔子に気圧された太助は言葉に詰まった。
「どーせ大騒ぎになっちゃうパーティーより、シャオと二人で過ごす時間の方がいいんじゃなかなぁ? 今日はクリスマスイブなんだしさ」
「うう‥‥」
 反論できない。
「シャオは、校門の所で待たしてあるんだけどな〜」
 試練も休みだし、太助はすぐにもシャオの所へ行きたかった。しかし、すぐに翔子の言う通りにするのもなんか嫌なのだ。まことに難儀な性格と言えよう。
「いいのかな〜、この寒空にシャオを待たせといても‥‥」
 待たせてんのはおまえだろーが‥‥と思いつつも、太助は翔子の最後の一押しでついに踵を返した。
「あ、七梨。シャオに後で家に行くからって言っといてくれよな」
 教室を出て行く太助を見送って、翔子は、うんうんと満足そうな顔をした。
「翔子殿」
 ベランダの窓の上から、短天扇に乗ったキリュウがふわりと降りてきた。
「キリュウ。いいぜ、入ってきても」
 ベランダの引き戸を開けて教室に入ってきたキリュウは、寒いのも苦手である。たっぷり着込んでいるその姿は見るからに着膨れていて、モコモコしていた。
「そ、そんなに着込んで、動きづらくないか?」
 翔子はキリュウのカッコを見て素朴な疑問を口にした。
「この季節、短天扇に乗って飛ぶと、とっても寒いのだ。それより見つけてきたぞ」
「お、サンキュー」
 キリュウは小降りの枝を翔子に渡した。淡い黄色半透明の小さな実がたくさん付いている。
「ようし、これで小道具はそろった。それから、あれは埋めといてくれた?」
「ああ、すでに‥‥翔子殿、それはいったい何に使うのだ?」
 今度はキリュウが素朴な疑問を口にした。
 もったいつけるように、うつむいてふふっと笑った翔子は顔を上げて、キリュウに向かってにっと笑って見せた。
「あの二人に翔子サンタから、クリスマスプレゼント」

☆☆

「はぁ〜〜っ」
 校門に寄りかかって、翔子を待っているシャオは手袋をした両手を擦り合わせて白い息を吐くと、どんよりと曇った空を見上げた。
「翔子さん、おそいなぁ」
 校門まで来たところで忘れ物をしたと言って校舎へ戻って行く翔子を見送ってから、たっぷり三十分は過ぎただろうか、今日は終業式で午前中で終りの学校は下校する生徒もまばらになってきた。
 待っている間にシャオは翔子の話を思い出していた。

「シャオ、宿り木って知ってるか?」
「宿り木ですか?」
 翔子に尋ねられたシャオは、点目になって考え込んだ。周りにはたくさんクエスチョンマークが飛んでいる。
「それでは、シャオ君。教えてあげよう」
 芝居がかった翔子の仕草に、シャオはクスッと笑う。
「クリスマスイブの晩に宿り木の飾りををツリーに付けて、その下に立った二人にはとぉぉぉっても、幸せなことが起こるんだ」
「とぉぉぉっても?」
「そう、とぉぉぉってもだ。ただし‥‥」
「ただし?」
「二人っきりじゃないと、効果は現れない」
 自信たっぷりな翔子の言葉に、シャオは夢を見ているような表情になった。
「‥‥わ、私でも‥太助様に幸せをあげることができる‥‥」

  ここは平和な時代。不幸がない以上、主を不幸から守ることしかできない
  守護月天にできることなんてなにもないでしょう あなたなんて、いても
  邪魔なだけなのよ。

 以前にルーアンに言われた言葉‥‥シャオは自分の中で一度は納得したつもりだった。 でも確かに、主様に危険が及ぶことの少ないこの時代では、私は役目を果たせていない。自分が太助にしてあげられることは、なにもないのかもしれない‥‥
 心のどこかで、そんな思いがひっかかっているのも事実だった。それは表現できないもやもやした気持ちと一緒になって、時々シャオの胸をしめつける。
「シャオ? どうかしたか?」
「え、あっ、翔子さん‥‥‥なんでもないです」
「宿り木の飾りはあたしが、今夜持って行くからさ‥‥あ〜、しまった教室に忘れ物して来ちまった。シャオ、校門のとこでまっててくれ」
 そう言い残して翔子は、校舎へ駆けて行った。

「シャオ」
「太助様!」 
 シャオは、突然現れた太助に少し驚きながらも、柔らかな表情で応える。
「太助様、今日試練だったんじゃないんですか?」
「今日は、次の試練の準備するからお休みだってさ。山野辺が、さっきキリュウの手紙を持って来てくれたんだ」
「え? それじゃぁ翔子さんは‥‥?」
「まだ、教室だぜ。あとで家に行くって言っといてくれって」
 どこか照れ臭そうな太助は、ちょっと横を向いて言った。
「そうですか‥‥それじゃぁ、太助様。お買い物にいきましょ」
 太助の手を取ったシャオは、とびっきりの笑顔で駆け出した。

☆☆

 ピンポーン
「はーい」
 リビングでクリスマスツリーの飾り付けをしていた太助は、呼び鈴に応えると作業を中断して玄関に向かった。シャオはキッチンでお料理中である。
「よっ、七梨」
「山野辺‥‥ずいぶん早いじゃないか、パーティーは六時からだぞ」
「なんだよ、その嫌そうな顔は‥‥」
 太助は努めて普通に応えていたつもりだったが、どーにも顔に出てしまうらしい。
「シャオは?」
「キッチンで料理して‥‥」
「あ〜、ルーアンさんダメですぅ。これはパーティー用のお料理なんですからぁ‥‥」
 ルーアンがつまみ食いを敢行したのだろう、シャオの声がキッチンから聞こえてきた。
「そうか‥‥これやるよ」
 キッチンの方を少し気にしながら、翔子はブルーのリボンで飾った淡黄色半透明の実の付いた枝を太助に渡した。
「なんだ、こりゃ?」
 受け取った枝をしげしげと見ながら、いぶかし気な顔をしている太助に翔子は楽しそうでいて、凶悪な顔で近づいた。耳の近くで小声でささやく。
「いいか、七梨。これは宿り木って言ってな、クリスマスツリーに飾り付けて、その下に立った女の子にはキスをしてもいいっていう決まりがあるんだよ。北欧の風習だ」
「〜〜っっ!!」
 太助は口に手をあてて廊下にへたり込むように座ったまま、器用に後ずさった。
「ま、これをどうするかは七梨次第だけどな。でもなぁ、七梨。せっかくのクリスマスなんだから、びしっと決めてみ」
 呵呵と笑いながら、勝手に上がり込んだ翔子は太助の横をすり抜けるとリビングに消えた。
 太助はもう一度、手の中の宿り木を見た。
−− 山野辺のやつ、またなんか企んでるな‥‥北欧の風習? キスしてもいいなんて、この日本で‥‥ −−
 否定しながらも、目をつぶって顔を近づけるシャオの柔らかそうな薄桃色のくちびるが太助の脳裏によみがえった。過去に二回、目の当たりにした光景‥‥。
 ピンポーン
「〜っ!!」
 再び鳴った呼び鈴に驚いた太助は、宿り木をわたわたと手の中で踊らせ、おもいっきりあせった。
「は、はーい」
 なんとか取り繕って宿り木を隠してから玄関を開けると、他のメンバーが勢揃いしていた。景気良く、クラッカーがはじける。
「メリークリスマース!!」
「おまえら〜、パーティーは六時からだって言っただろーがー」
 カラフルな紙テープにたくさん絡められ、まだ紙吹雪が舞っている中、太助は声を上げた。
「まーまー、太助君。準備とか、いろいろ手伝いますから」
 出雲は太助をなだめるように言うと、これまた勝手に上がり込んですたすたと廊下を歩いて行く。
「七梨先輩、おじゃましま〜す」
「太助君、ルーアン先生は?」
「太助、メリークリスマス」
花織、乎一郎、たかしの順に廊下で立ち尽くしている太助に挨拶しながら、リビングに消えた。
「やっぱし、こうなるんだ‥‥」

「まぁったく、シャオリンったらケチなんだから、ちょっとぐらいいいじゃないの」
 キッチンから追い出されたルーアンは、指をくわえて子供のような仕草をしながらリビングに入って来た。
「あら‥‥みんな何時来たの?」
 ルーアンは、ソファーを動かしたり、テーブルを並べたり準備をしている面々に言った。つまみ食いに夢中で、まったく気づかなかったらしい。
「ルーアン先生! メリークリスマス!」
「メリークリスマス‥‥」
 ルーアンを見つけるや、わざわざ前へやってきて元気よく言った乎一郎になんとなく応えながら、ルーアンは飾り付けの進んだリビングを見渡した。
 テーブルクロスを広げている翔子、二人掛けのソファーの向こうで文句を言っているたかし。おそらくは、乎一郎とソファーを運んでいたのだろう。クリスマスツリーの飾り付けをしている、出雲と花織‥‥
 飾り付けをしながら、出雲が花織に小さな包みを渡したのをルーアンは見逃さなかった。包みを開けた花織の表情がぱぁっと輝く。
「あやしい‥‥‥」
「えっ、なに? ルーアン先生」
 乎一郎の問いには応えず、ルーアンはソファーを飛び越えて、しゅたっとクリスマスツリーの所にいる出雲の前に立って腰に手をあてた。
「ちょっと、いずピー。あなた、シャオリンのことあきらめちゃったわけ?」
「は?」
 歯に衣着せぬルーアンの物言いに面食らった出雲は、目をぱちくりさせた。ルーアンの言葉にリビングの全員が注目する。
「なっ、なにを言い出すんですか!」
「そういえば、初めて会った時に言ってたわよねぇ‥‥私は年下が好きなんですって、それもきっぱりと‥‥」
 触れるだけで切れてしまいそうな、鋭い流し目で出雲をとらえるルーアン。
「い、いったい何が言いたいんですか?」
 平静を装う出雲。
「たとえば、今プレゼントを渡した、年下の娘とかぁ」
 今度は視線を花織に向けたルーアン。切れ長の目が怪しく光る。
「な、なぁにバカなこと言ってんですか!」
 いきなり渦中の人になってしまった花織が、火を吹きそうな勢いで抗議の声を上げる。
 花織を無視したルーアンは、視線を天井の隅に向けて喋り始めた。ふふん、ルーアンたら、かっこいーってなもんだ。
「私は見た‥‥夕闇せまる公園、ベンチには寄り添う恋人達ばかり‥‥おや、あれに見えるは、いずピーと小生意気なおじょーちゃん‥‥おおおおっと、肩に手がぁぁ」
「なっ、なに〜〜っ!!」
 突然大声を出した、たかしに注目が集まる。
「どーしたの、たかし君?」
「あ、いや、別に‥‥あはははは」
 冷静な乎一郎の問いに我に返ったたかしは、言い様のない感情を飲み込んで笑ってごまかした。
「とぉにかく、あたしは見たのよ。さぁ、ほんとの事をおっしゃい!」
 びしぃっと音がしそうな勢いで出雲を指さした。
「う‥」
 ルーアンの勢いに、たじたじになった出雲は、ついに観念した。それでも体制を整えてカッコ良く前髪をかき上げる。
「しかたありませんね‥‥先に言っておきますが、私はシャオさんをあきらめるつもりはありません」
「あたしだって、七梨先輩のことあきらめたりしてませんっ!」
 出雲と花織はきっぱりと宣言した。
「あら」
 はっきりと言ってのけた二人にルーアンは、すっかり毒気を抜かれてしまった。
 辺りをきょろきょろと伺った出雲は全員を近くに集めるようにして、自分を中心に輪を作った。
「幸い太助君もシャオさんも居ませんから‥‥まぁいいでしょう」
 出雲は先程、花織に渡したのと同じ包みを出して中を開けて見せた。花織がしぶしぶ出雲に従って包みの中を取り出す。
 やっぱり、こいつも知っていたか‥‥出てきた物を見たとたん、翔子は心の中で舌打ちをした。
「これは宿り木と言ってクリスマスツリーに飾り付けて、その下に立った二人はキスをしなければならないという風習があるんです」
「ええ〜〜っ!」
 知っている翔子、ばれてしまった花織と出雲以外が見事にハモって声を上げた。

 こっ、この枝の下に立てば、シャオちゃんと‥‥
 たかしは握った拳に思わず力が入った。

 この枝の下にルーアン先生と‥‥
 顔を赤くした乎一郎は、もじもじしている。

 たーさまと、この枝の下で‥‥あう〜ん、ルーアンったら、はずかしい〜
 誰もいない空中を抱きしめる仕草をしてルーアンは自分の世界へ行ってしまっているようだ。

「あ〜、コホン。 こうなってしまった以上はしかたありません。宿り木はツリーの左右にひとつずつ付けます。これでチャンスは平等です」
 出雲はグリーンのリボンの宿り木と、一度は花織に渡したピンクのリボンの宿り木をツリーの枝に隠れるように高い位置に付けた。
「みんなが一気に行動に出ると、めちゃくちゃになっちゃいますから、ルールを決めましょう」
 翔子以外は、出雲の話しに神妙な顔で聞き入る。
「宿り木の下に立って想いの相手を呼ぶのは、一回だけ。パーティーの間なら権利はいつ使ってもOK。ただし、相手を無理矢理引っ張って行くのは反則です。いいですね」
 翔子以外のそれぞれが自分の思惑を胸に頷いた。
「アホらし。あたし、一抜け」
 そこまで聞いてから、参加する気のない翔子が話の輪から外れる。構わずに出雲は続けた。
「それと、ルーアンさん。陽天心は絶対禁止ですよ。いいいですね」
「わ、わかったわよ」
 今度は逆に出雲に気圧されるようにルーアンは了承した。

「なんで、おれが‥‥まぁったく、仕事増やすなよなぁ」
 その頃、怪しい密約が交されているのを全く知らない太助は、玄関でぶつぶつ言いながら先程派手にはじけたクラッカーの紙吹雪やら紙テープの掃除をしていた。

☆☆

「メリークリスマス!」
 改めて歓声が上がり、クラッカーが連続ではじけた。
 出雲とルーアン以外は、未成年なので当たり前だが、全員お酒はなし。ジュースにコーラにウーロン茶で乾杯である。
 ルーアンは本気で料理をかっこんでいたので無理もないが、最初の歓声の後、だれも口を利こうとしない。
「な、なんだ? この張りつめた空気は‥‥」
 太助は妙におとなしい面々を見渡した。
 いつもなら、いろんなおもちゃを持ちだして来てゲーム大会ですぅ。とか言ってはしゃぎ出す愛原も、訳のわからない事を熱く語り始めるたかしも、かしこまって座ったままである。料理をかっこんでいるルーアンだけはいつもの通りだが‥‥
「あ、いっけない」
 太助の横で急に立ち上がったシャオに、出雲、たかしの二人が微かに反応する。
「ケーキを出すのを忘れてました」
「ケーキ?」
「はい。今年は、がんばって大きいの作っちゃいました」
「あ、手伝うよ」
 続けて太助も立ち上がった。これには花織がぴくっと反応した。ルーアンはまだ、目の前の料理に夢中である。
 うれしそうに話すシャオに、これまたうれしそうに応える太助。翔子と乎一郎以外のこめかみで、ぷちぷちと血管が切れる音が聞こえてきそうである。
 仲良くキッチンに消えた二人を見送った一同の中で、まず出雲が動きだした。
「さてと‥‥」
 オレンジジュースのグラスを片手に、クリスマスツリーに近づいた。続けてたかしが立ち上がろうとする。
「たかし君、ダメですよ。先に行動をおこしたのは私です」
「あ、きったねー」
 抗議の声を上げるたかしをあしらいながら、出雲は宿り木の下に立った。
「ケーキですー」
 シャオが人数分のお皿とフォークを、太助がイチゴのたくさんのった大きなケーキをかかえて、リビングに戻って来た。
「あ、シャオさ‥‥」
 出雲はシャオを呼ぼうとしたが、後ろから肩を叩かれた。
「しょ、翔子さん。あ、まさか、あなたが‥‥」
 意外な人物の出現に、めずらしく出雲がうろたえる。
「ばーか、下を見てみな」
「下?」
 出雲が反射的に自分の足元を見ると、そこにはあまったツリーの飾りに楽しそうに絵を描く離珠の姿があった。
「なぜ、そんな所におられたのですか、離珠さん‥‥」
 悔しそうで悲しそうな、なんとも言えない表情の出雲の掌の上で離珠は、てへっと笑った。
「おにーさん、権利消滅」
 翔子は判決を下す裁判官のように言った。
「こっ、これは‥‥」
「これは、自分で決めたルールだよなー」
「ぐっ」
 出雲は言葉に詰まった。
「あら、離珠。ほんっとに出雲さんとは仲良しさんね〜」
 ケーキ皿をテーブルに置いたシャオが言うと、離珠は出雲の掌の上から、ちゅわわわ〜んと飛び降りた。ケーキの上にのったイチゴに、心を奪われたようだ。
「よかったな、みんなの前で離珠とキスしないで済んで‥‥」
 離珠をぼう然と見送った出雲に追い打ちをかけるように、翔子がぽんぽんと肩を叩く。
「よっしゃぁっ! シャオちゃん」「し、七梨先輩っ!」
「えっ? え〜〜〜っ!!」
 同じように声を上げながら、互いに指をさし合った花織とたかしは、ピンクのリボンの宿り木の下に立っていた。
「お〜お、仲のおよろしいことで‥‥で、どーする お二人さん?」
 すべてをお見通しの翔子は、わざと茶化すように意地悪な顔で、たかしと花織を交互に見た。
「もーっ! しんじらんなーいっ!! 反対側にもあるのになんでわざわざ、こっち側にくるのよぉぉぉっ! 野村先輩のばかぁ」
「しっ、しかたねーだろ。こっちには、出雲がいたんだから! 花織ちゃんこそ何で急に動いたんだよっ!」
 どちらも耳まで真っ赤になっているのは、怒っているからだろうか、照れているからだろうか?
「やれやれ、素直じゃねーなぁ‥‥んで、残るは‥‥」
 ようやくひと心地ついたのか食べるのをやめて、こちらを見ているルーアンと翔子は目が合った。
「ふふっ、みんな甘いわね」
 ルーアンは、鳥の空揚げ(骨付き)を片手に立ち上がった。
「真打ちは最後に登場するもんなのよ」
 テーブルをひらりと越えてツリーの前に立ったルーアンは、わざと宿り木の下に立たずに太助を呼んだ。
「たーさまぁ。ちょっと、こっちも手伝ってぇ」
「どーしたんだよ、ルーアン?」
 大きなケーキをテーブルに置いて、ケーキを切り分けて配るシャオの手伝いをしていた太助は作業を中断してルーアンの方を見た。
「なんか、ツリーのこの辺の電気が消えちゃったみたいなの」
 ルーアンが指さした部分は、ルーアン自身の陰になって太助からは見えない。
「しょうがねーなぁ‥‥」
 事情をしらないシャオ以外の全員がかたずを飲んで、立ち上がってルーアンに近づく太助に注目した。
「し、七梨。ツリーはケーキを配り終わってから見てもいいんじゃ‥‥」
「ん?」
「たーさまったら、早くぅ」
 なんとか阻止しようとした翔子の作戦は、さらに大声を出したルーアンに阻まれる。
 ルーアンの「じゃますんじゃないわよ」と言わんばかりの視線は無視したが、事態の成り行きに翔子は頭を抱えた。
 ツリーまであと一歩の所まで太助が来たのを見てルーアンは、一歩下がって宿り木の下に立った。
 これで、たーさまとの、あま〜〜いキスはあたしのもの‥‥
 ハートマークを山ほど飛ばして、ルーアンは両手を広げた。
「ルーアン、せんせっ!」
「え?」
 振り返ったルーアンの横に乎一郎が立っていた。ちゃっかり、宿り木の下である。
 乎一郎、ナイスっ! 思わず心の中で叫んだ翔子は素早く立ち上がってツリーに駆け寄る。
「これで、全員権利消滅!」
 ツリーから宿り木を外した翔子は、みんなの方に振り返った。
「げ、そ、それは‥‥」
 翔子が外した宿り木を見て太助が、その場にへたり込む。自分がいかに危うい状態にあったのかをようやく認識したのである。
「さぁ、ゲームは終わりだ。パーティーやろうぜ」
 翔子の明るい声に応えたのは、シャオただ一人だった。

☆☆

 その後、乎一郎をさんざん、締め上げたルーアンはヤケ喰いモードに突入した。
 仲良く口ゲンカをしていた花織とたかしは、オセロで決着を付けることになったらしく、大騒ぎしながら二人でオセロをしていたようだ。もちろん、たかしの惨敗である。
 出雲はというと、一人落ち込んでいる所を離珠に慰めてもらっていたという目撃情報が入っている。
 そして‥‥‥

 コンコン‥‥
 窓の外に短天扇に乗ったキリュウがふわりと降りてきて窓を叩いた。あいかわらず、モコモコである。
「キリュウ! どこ行ってたんだよ! せっかくのパーティーなのに」
「主殿、庭に出られよ」
「え? 今日は、試練休みじゃなかったか?」
 ぶつぶつ言いながら太助は庭に出た。
「試練ではない」
「は?」
 キリュウは、シャオとともに庭に出てきた翔子に目くばせをした。小さく頷く翔子。
「ごめんな、シャオ」
「え?」
 翔子の意外な言葉を問い直す間もなく、シャオは太助の方へ突き飛ばされた。
「万象大乱‥‥」
 突き飛ばされたシャオが太助の肩につかまって体を止めると、二人の足元がゆらぎ、ものすごい勢いで巨大化を始め、あっと言う間に成長して行くそれに乗ったまま、五十メートルぐらいは押し上げられたであろうか、気がつくと二人は空の上にいた。

「わぁ、太助様。街があんなにきれい」
「あ、ああ」
 イルミネーションで飾られた街が空気の揺らめきを受て瞬き、まるで地上に広がった星空のように見えていた。
「これって‥‥」
 太助は、てっぺんに飾られた巨大な星飾りを発見した。
「これって、クリスマスツリー‥‥庭にこんなもん埋めてたのか」
「えっ? クリスマスツリー?」
「そうだよ、ほら、あれも」
 太助は少し下の方にある、巨大化した銀色の玉の飾りを指さした。
「クリスマスツリー‥‥クリスマスイブの晩‥‥‥太助様と二人っきり‥‥」
「え?」
 条件を呪文のように唱えて確認しているシャオの最後のセンテンスに、太助はドキッとした。
 全ての条件が揃ったのを確かめて表情をぱぁっと輝かせたシャオは、ポケットから何か取り出して頭の上の枝に結び付ける。
 淡い黄色をまとった半透明の実がたくさんついた枝‥‥
「シャ、シャオ、それは‥‥」
 シャオは太助にぐぐっと近づいて真剣な顔をした。大きく見開かれた瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥る太助。
 えっ? えっ? え〜っ!! こっこれは、キッ、キスを求めているってかぁぁぁ‥‥
たっ確かに、これは宿り木の風習で、決まりで、でも、シャオがいきなりこんな大胆な事をするなんて‥‥初詣のときに、今年こそキスぐらいは〜ってお願いしたけど、神様が、こんな年の最後になってかなえてくれるなんて‥‥いやでも、お願いしたのは宮内神社だし‥‥
 もはや、なにがなんだかわからない。男の子、太助君の葛藤大暴走である。
「太助様、幸せになりました?」
「は?」
 シャオの言葉に太助は、暴走も思考も停止した。
「翔子さんが教えてくれました。クリスマスイブの晩に宿り木を付けたツリーの下に、二人っきりで立つと、その二人には、とぉぉぉぉっても幸せなことが起こるって」
 山野辺ぇ‥‥やっぱり、またおまえかぁ‥‥太助は心の中で思った。
「私、太助様とこんなにきれいな夜景が見られて、今、とっても幸せです。太助様は‥‥」
 言葉を途切らせたシャオは、ちょっと不安気な顔になって太助を見つめる。
「シャオ‥‥おれも今、とっても幸せだ」
 太助は心からの笑顔で応えた。
「よかったぁ」
 シャオは地上に広がった星達よりも、キラキラした笑顔になった。

「キリュウ、協力してくれてありがとな」
 翔子から暖かいココア受け取りながら、キリュウは微笑んだ。
 キリュウのとなりに座って、目の前にある巨大なツリーの幹をたどるように空を見上げた翔子は、ココアのカップを天にかざしてつぶやいた。
「メリークリスマス‥」

− 終 −


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