プロローグ

「あら? わたしったら洗い忘れたのかしら」

シャオは使った憶えのない鍋を見つけると首を傾げた。
春も終わりが近づいたある日の休日。
七梨家ではいつも通りの朝を迎えていた。
シャオは早くから朝食の支度をしている。

「太助様、もう少し待っていてくださいね」
「ああ、なんか手伝うことがあれば言ってくれよ」
「はい」

シャオは居間で新聞を読んでいる太助の方を向いたまま朝食の準備をしている。
だが、その手元は多少の狂いも無い。
ふとシャオは思い立ち、太助に頼み事をすることにした。

「太助様。ルーアンさんとキリュウさんを起こしてきてもらえますか?」
「……いいけど、あの二人寝起きが悪いのがなぁ」
「駄目ですか?」

シャオが太助に顔をグッと近づける。
いまだに、シャオの顔近づけ攻撃には慣れる事ができない太助は思わずのけぞる。

「……いや、行ってくるよ。キリュウ風に言えばこれも試練だしな」
「はい、お願いしますね」

太助が立ち上がり2階へ上がっていくのを見送ると、シャオは朝食の支度を続ける。
朝食のメニューは以下のとおり

中華粥
東坡肉
三喜油條
蝦仁柳葉米粉蒸餃子

……と、モロ中華料理だった。
それでも最近は中華以外の料理も、もちろん作るようにはなっている。
今日はたまたま中華だっただけ。
シャオが支度を終え食卓に料理を並べていると、太助が疲れた顔をして食堂に入ってくる。
そしてへたり込むように卓につく。

「……大丈夫ですか? 太助様」
「二人とももう少ししたら来るから……」

太助が言いおわるか終わらないかの内に、二人とも食堂に入ってきた。
キリュウは、まだ少し眠そうな顔でパジャマのままで。
ルーアンは、意外にもピシッとスーツを着込んでいる。

「……シャオ殿、オハヨ」
「あ〜、お腹すいたぁ」

シャオの休日はいつもどおりに始まったハズである……
 


みんなの休日vol.2   シャオのパーティーパーティー 
 

「じゃあ、あたしは学校に行ってくるからね。たー様、ルーアンが居なくても寂しがらないでね〜ん」

朝食を終えたルーアンが足早に家を出ていく。
キリュウは食べおわると自室に戻り、やがて無言で出かけてしまった。

(シャオしゃま、シャオしゃま)

後片付けをしていたシャオの袖を、くいくいと離珠が引張った。

「ん、なぁに? 離珠」
(これあげるでし)

離珠は封筒を渡そうとしたが、シャオが洗い物中で手が泡だらけなことに気付き、エプロンのポケットにそれを入れる。
シャオは手の泡を洗い流してエプロンの裾で手を拭くとポケットから取り出してそれを見る。
それは一通の招待状であった。

(シャオしゃまを星神一同主催のパーティーにご招待でし)
「まぁ、パーティーに?」
(そうでし、おもてなしでしっ)

えっへんと胸を張る離珠。

「太助様、太助様」

シャオは居間で、糖葫蘆を茶菓子にお茶飲んでくつろいでいる太助にかけよる。

「どした? シャオ」
「星神達が、私をパーティーに……」
「へえ、良かったじゃないか。行っておいでよ」
「でもでも、お家の中の事とかもしなくちゃいけませんし……太助様のお昼ご飯だって」
「大丈夫だって、俺だってシャオが来る前は一人でちゃんとやってたんだし、家の中のことは気にしなくてもいいからさ」
「ありがとうございます、太助様。行かせてもらいますね」

洗い物がありますから、と台所に戻るシャオの後ろ姿は嬉しそうだった。
台所の方からシャオの鼻歌が聞こえてくる。

「シャオが喜んでくれて良かったな、離珠」
(はいでし、太助しゃま)

離珠も満面の笑みを浮かべている。
よほど嬉しいのか、離珠はテーブルに何か描き始める。

「ああ、またそんなところに……」

 目に涙を浮かべるシャオ→心配そうな星神一同→????→何かを一所懸命運んでいるらしい離珠
 →????→楽しそうなシャオ→シャオを中心にバンザイをする星神一同

一部判らないところもあったが、どうやら今回のパーティー企画の経緯を説明しているらしかった。
太助は離珠の頭にぽんと手をあてて優しくなでる。

「そっか、みんな頑張ったんだな。シャオ楽しんでくれるといいな」
(はいでし)

離珠は満面の笑みを浮かべてうなずいた。
やがて洗い物を終えたらしいシャオが居間に戻ってきた。

「太助様、冷蔵庫に作り置きのおかずがありますから……それとそれと」

どうしてもシャオは太助の事が気にかかるらしい。
さすがは守護月天というべきか。
太助としては、もう少しは守護月天の役目を気にせずに接して欲しいのだが。

「そんなに気にしなくてもいいからさ。今日は楽しんでくるといいよ。俺は一人でも大丈夫だから」
「すいません太助様。なるべく早く戻りますから……」
「いいから、いいから。滅多に無い事なんだからさ」
「ありがとうございます、太助様。じゃあ行ってきますね」

そう言って、シャオは支天輪に戻る。
戻り際に支天輪から外を見上げると、太助が笑顔で見送ってくれていた。

支天輪の中にて

「シャオリン様、ようこそ星神一同の宴へ。一同を代表してこの南極寿星がお出迎えいたしますじゃ」

南極寿星を中心にして、星神一同がシャオに向かって深々とおじぎをする。

「お招きありがとう、みんな本当にありがとう」
「ささ、こちらへどうぞ。シャオリン様」

南極寿星が促す先には、居並ぶ料理の数々。
たたずむ八穀の表情もどこか誇らしげだ。
料理をのせた円卓の向こうには即席の舞台がある。
当然、羽林軍の作であろう。
南極寿星はシャオを座らせると、星神達に目配せして続けて座らせる(座れない者も当然いたが……)

「ではシャオリン様、宴の始まりですじゃ」

かくして、パーティーは始まった。

(シャオしゃま。離珠達、また『かれぇらいす』作ったでし)
「月天様、食べてくれよ」

見れば星神トリオがカレーライスを盛った皿をシャオに差し出していた。
カレーライスを受け取ったシャオは感激で胸が一杯になる。
その嬉しそうなシャオを遠目に見ながら、南極寿星は一人盃を傾けながら物思いにふける。

(そう今日はシャオリン様の……)
「どうしたの? 南極寿星。私の顔に何かついてるかしら」
「いえいえ、シャオリン様が喜んで下さったので嬉しかっただけですじゃ」

南極寿星は思いを心の中に閉まって酒と共に飲み込んだ。

(寿星しゃま、なに飲んでるでしか?)

南極寿星が振り返ると、離珠がもの欲しそうな顔で見ていた。

「離珠、お主も飲むか?」
(はいでし)

南極寿星は盃を差し出すと、離珠に注いでやる。

(ちゅわ☆おいしいでし)
「お主意外といける口じゃの」

かけつけとばかりに、南極寿星は次々と離珠に酒をすすめる。
離珠も次々とそれを空ける。
負けじと南極寿星も次々と酒を飲み続けるのであった。

それから2時間後

即席舞台では、星神達による隠し芸大会が繰り広げられていた。
次は星神トリオによる出し物らしい。

「よっし、軒轅。そろそろ準備を始めようぜ」

虎賁が腰を上げて、軒轅を促す。
軒轅はすでに小道具の入った袋を口に咥えて待っていた。

「離珠はどこに行ったんだ?」

軒轅はぶんぶんと頭を横に振る。
虎賁は辺りを見回す。

「あ゛」

虎賁の視界に飛び込んできたのは南極寿星と一緒に異常な盛り上がりを見せている離珠だった。
二人で小皿を叩いてちゃんちきやっている。
虎賁は二人に近づき離珠を無理矢理に立たせる。

「おい、離珠そろそろ出番なんだから早く準備するぞ!」
(えう〜)

虎賁の方を振り向いた離珠の目は据わっており、どう見てもまともではなかった。

「お……おい、離珠大丈夫なのか?」

おもわず後ずさる虎賁。
あわせてにじり寄る離珠。
みかねて間に入る軒轅。
と、離珠がいきなりハイな笑顔になる。

(さあ、虎賁しゃん、軒轅しゃん。行くでしっ!)

立ち尽くす二人を尻目に離珠は、即席舞台に上る。
あわててそれを追いかける二人。

「ったく、まだ準備が終わってないってのに……」

二人の苦悩も知らずに、離珠は舞台の上でシャオに向かってブンブンと両手を振り上げている。
シャオも離珠の異常に気付いてないらしく、にこにこと手を振り返している。
虎賁はおもわず天を仰ぐ。
軒轅が虎賁の背中をつつく。

「……と、そうだな。今は離珠を何とかしないとな」

その時であった。
虎賁達の後ろの方で新たな騒動が起きていた。
星神達がどよめいている。

「もう酒がないぞいっ!」

南極寿星である。
紹興酒の空瓶を振り回していた。

「誰か、酒を買ってこ〜い!!」
「あのジジイ……」
(り……離珠が〜、い……行ってくるでし〜!)

ふらつきながら、南極寿星に近寄る離珠。

「お……おい、あぶねーぞ」

虎賁が止めようとするが、離珠はフラフラと巧妙にかわす。

(寿星しゃま、離珠にまかせるでしよ〜)

ぽんと小さな胸を叩く離珠。

「よしっ、行ってこい離珠」

南極寿星は杖を掲げると、離珠の方に振り下ろす。
すると、離珠がこの場から消えた。
恐らくは南極寿星が支天輪の外に出したのだろう。

「……冗談じゃないぞ、おい」

虎賁は急いでシャオにかけよる。

「月天様、月天様っ!」
「虎賁どうしたの?」

シャオは相変わらずイマイチ状況というものが飲み込めていないようだった。
虎賁が思わず地団太を踏む。

「離珠が外に出ちまったんですよっ! あいつ一人じゃ危ない。俺と軒轅を早く外に出してください」
「……え、ええ」

ぽかんとしながらも、虎賁の剣幕に圧されたシャオは二人を外に出す事を許可する。
虎賁と軒轅が支天輪を出て行くと、支天輪の中は静かになった。
シャオは自分の席に戻ると一つため息をついた。

「太助様、いきなり3人が出て来たから驚いたんじゃないかしら……」

想像するとすると少しおかしくなって、クスッと思わず笑みがこぼれる。

(でも太助様と一緒にパーティー出来たらもっと楽しいだろうなぁ)

最近あまり太助といる時間が長くないのでシャオは少し寂しかった。
太助となら一緒にいるだけで、一緒に話しているだけでシャオは幸せでいられる。
気づくと太助の事ばかり考えている自分に気づいても、シャオはそれが守護月天として主様のことを考えるのは当然の事だと思ってしまい、その奥にしまいこまれた恋心であることには気づかないのだ。

「シャオリン様っ!」
「きゃあっ!」

いきなり後ろから大声で話しかけられシャオが悲鳴をあげる。
背後に立っていたのは南極寿星であった 。
もちろん泥酔モードに移行したままだ。

「何を考えておられた?」
「べ……別に何も考えてなんか……」

座ったまま後じさりして逃げ腰になるシャオ。

「嘘ですなっ」

きつく嘘であると決めつける南極寿星。

「どうせまた、小僧のことでも考えておったのでしょう」
「そんなことないです……」

実際にシャオは太助の事を考えていたのだが、なぜか認めたくなかった。

「シャオリン様。わしはあの小僧のことを認めた訳ではありませんぞ。あくまでも一時的に様子をみておるだけに過ぎませんのじゃ。」
「…………」
「シャオリン様が早くあの小僧に愛想をつかさないかと、わしは待ち遠しいですじゃ」

シャオは何も言わない。
だけど太助と離ればなれになるのはもうイヤだった。
以前なら少しの間離れることがあっても平気だったのだが、今は太助と離れているのがイヤになった。

(太助様と一緒にいたい)

強く、強く願うから、離れるなんて絶対にイヤだった。
今までの主との間にあった感情とは別のなにかが太助との間にはある。
シャオ自身もその気持ちの変化が違和感となってあらわれて戸惑っている。

「何かきっかけがあれば、ワシはまたシャオリン様。あなたを支天輪に戻すことにためらいはしませんぞ」

シャオの耳に一番聞きたくない言葉が流れ込んでくる。
もう聞きたくない。

「……わたし、離珠たちの様子を見に行ってきますっ!」

シャオはその場から、南極寿星から、太助と引き離されるかもしれないという恐怖から逃げ出すように、立ち上がって支天輪を飛び出した。

「……ふんっ!」

南極寿星はシャオとは対極的に腰を下ろす。

「早く酒が来ないかのう」

呑気にしている己の背後に、怒りに肩をふるわせた星神一同が迫っていることなど、悪酔いしている南極寿星には気づけるはずもなかった。合掌

七梨家にて

たまらず飛び出したまでは良かったが、どこに探しに行くあてもないシャオはソファーに腰をおろして、まずは気を落ち着けることにした。
徐々に落ち着いてくると、のどがカラカラになっていることに気づき、シャオはキッチンに足を向けた。
冷たいものが飲みたかった。
冷蔵庫を開け中を見回すと、小瓶があった。
ラベルは貼られていない。

「何かしら?」

フタを開けて香りをかぐといい匂いがする。
不用心にもシャオはそれを飲むことにした。
コップに液体を注いで、キッチンのイスに腰掛ける。
そして一口。

「あまくておいしい♪」

甘くておいしいのはいいけど、正体のわからない物は口にしない方がいいと思うよシャオちゃん……

口当たりもすごく良くて、シャオはすっかりこの飲み物が気に入ってしまった。
先ほどのイヤな事も自然と溶けて消えていく。
それだけでもこの飲み物の存在意義はあった。
気づくとシャオはビンの中身を全部飲んでしまっていた。
ほんのりと頬が染まっているシャオ。

「3人を探しにいかなくちゃ……」

イスから立ち上がるシャオ。
だが、ふらついてしまう。

「なんか変ですぅ、部屋の中がぐにゃぐにゃして〜」

ニコニコと笑みを浮かべながら、キッチンから出るシャオ。
結局あまり歩けず、ソファーに崩れるように座り込む。
眼を閉じると、初めて太助と出会った日のこと、一緒に海や温泉に行ったこと、いつも優しく自分を見守ってくれる太助の眼差しが浮かんでくる。

「ふわあぁ、太助様ぁ」

そのままクッションを枕にして、シャオは眠り込んでしまった。

エピローグに続く  


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