みんなの休日vol.1  花織の夢よりも……

プロローグ

季節はまだ春。
桜の花も満開を過ぎ、また次の年に咲き誇るための準備を始めようとしている頃。
新学期が始まり、あたし愛原 花織も2年生に進級しました。
でも、春なのに花織の心はちょっと曇りがち……。
ただでさえ、シャオ先輩とルーアン先生が一緒に住んでいて気が気じゃなかったのに、 最近七梨先輩のお家には新しく万難地天の紀柳さんまでが居候するようになって、花織はもう我慢が出来ません。
だから今日は日曜日だし、少しでも先輩と一緒にいたいから花織はこれから先輩のお家に遊びにいきます。
花織は絶対にシャオ先輩とルーアン先生には負けません。
負けたくありません!

「七梨先輩、待っていてください。今から花織がいきますからね」

七梨家にて

「じゃあシャオ、今日は楽しんでくるといいよ。俺は一人でも大丈夫だから」
「すいません太助様。なるべく早く戻りますから……」
「いいから、いいから。滅多に無い事なんだからさ」
「ありがとうございます、太助様。じゃあ行ってきますね」

満面の笑みを浮かべシャオは支天輪の中に戻っていく。
今日は星神達がシャオをもてなすパーティーを企画してくれたらしいのだ。

(でも支天輪の中ってどうなってんのかな? 一回見てみたい気もするな)

これで今日はこの家に残っているのは太助1人になった。
ルーアンは学校に職員会議に行っている。
キリュウはなにも言わずに外出した。
まぁ、太助が訊ねたところでまともに答えるとも思えないが。
太助は久しぶりに1人になれて少しほっとしていた。
このところバタバタしていてゆっくりと考え事もできずにいたからだ。

ピンポーン♪

誰か来たようだ。
休日の太助に平穏は2度と訪れないのかもしれない。
太助はゆっくりと玄関に向かった。

「しち〜り先輩、こんにちわ。遊びに来ちゃいましたぁ」
「なんだ愛原か……まぁ上がれよ」

太助はつい気の無い出迎えをしてしまっていた。

「……先輩、あたし来ない方が良かったですか?」

花織の表情がすっと曇る。
それを見て太助は大いに焦った。
この焦りが、すべての女性に対して優しくしてしまう太助のパーソナリティーに繋がっていくのである。

「そ……そんなことないさ、ごめん愛原。今日は俺しかいないから何も出せないけどゆっくりしていけよ」
「はいっ!」(やた、先輩と2人きりだなんてぇ〜! 今日はきっと先輩と……)

思わず花織は、にへら〜としてしまっていた。
ここで花織は神から天恵を受けた。

「そうだ! ね、先輩。どこかに遊びに行きましょうよ」
「ん〜、俺は家でのんびりしてたいんだけどな……」(注.やっぱりジジくさい)
「何いってるんですか先輩。外はと〜ってもいいお天気なんですよぉ。お家の中でジメジメしてるなんてもったいないです」 「でもな〜」

太助はどうも乗気ではないらしく、あまりいい返事をしない。
だが、花織はこのチャンスをものにするためには手段を選ばなかった。

「……先輩、花織とおでかけするのがそんなにイヤなんですか?」

目尻に涙を浮かべつつ、花織は太助ににじり寄る。
太助は後ずさりしつつ、対処に困る。

「……どうなんですか、先輩」
「……どうって言われても……」

なんだか花織は本当に悲しくなってきた。
浮かんでいた涙は頬をつたい、床に落ちる。
花織はうつむく。
ポロポロと涙が床に落ち、広がる。

天使の太助:(どうした太助! シャオが大事なら本気で断れ!)
悪魔の太助:(女の子を泣かせるなんてやるじゃないか太助。今日はシャオがいないんだから行っちゃえ行っちゃえ!)

太助の中で違う自分が責めてくる。
太助としては観念するしかなかった。

「……わかったよ。愛原、じゃあ遊園地にでも行こうか?」

天使の太助:(おいおい、そっちかい!)
悪魔の太助:(キヒヒ、太助。やっぱりお前も男だなぁ)

「ホントですか、先輩!」

うつむいていた顔を勢いよく上げる花織。
目元に残っていた涙がパッと散った後に続くのは天使のような笑顔。
太助は一瞬見とれてしまう。

(太助さまっ!)

シャオの顔が太助の脳裏をよぎる。
だが、今の太助は悪魔の太助によって支配されているのだ。
太助は今日はシャオの事を考えないで花織につきあうことにした。

「えへへ、先輩。初デートですね」

太助はとりあえず花織を居間に上がらせておいて、自分は身支度を整える。
花織の心は既にデートの事で一杯だったらしく、太助が後ろから声をかけてもしばらく気付かないくらいだった。

後藤菓子屋前にて

最近、山野辺 翔子はよく後藤菓子屋に来るようになっていた。
以前は店のばあちゃんとは目もあわせないようにしていたのだが、シャオと出会ってからはよく話をするようになり、時々学校をサボった時にも顔を出すようになっているくらいだ。

「んじゃな、ばあちゃん。また来るよ」

翔子が後藤菓子屋から出ると、視界にふと太助と花織の姿がよぎった。
次の瞬間、翔子は行動に出る。

ムギュ!

「痛ってぇえぇぇぇ」
「七梨、ちょぉ〜おっとこっち来い!」
「山野辺先輩、何ですかいきなりっ!」
「愛原、ちょっと七梨借りるぞ」
「痛いって! 山野辺ぇ」
「いいから来い!」

太助の耳を引っつかむとそのまま強引に花織から見えないところまで連れて行く。

「……何だよ、一体」

ようやっと翔子の耳たぶ攻撃から開放された太助は、耳をさすりつつブツブツと呟くように愚痴る。

「何だよじゃねーよ、七梨。お前何考えてんだ?」
「何って?」(注.こういう鈍感さが翔子の怒りを呼ぶのである)
「お前なぁ、シャオが大事じゃないのか?」

翔子は額に手をあて頭をふる。

「シャオが見たらどんだけ悲しむと思ってんだよ」
「今日はシャオは支天輪に帰ってていないから……」
「そういう問題じゃねーだろ」
「……まぁ、そうなんだけど……成り行きでな」
「とにかく、シャオを泣かすような真似だけはするなよっ! そんな事したらあたしは絶対にお前を許さないからな!」

言うだけ言うと翔子はそのまま太助に背を向けて走り去る。

「……わかっているさ、山野辺」(注.そういう事は本人の前ではっきりと言おう!)

太助は翔子の後ろ姿を見送りながら言うと、花織の所に戻る。

「山野辺先輩、何だったんですか?」
「いや、何でもないさ。それより早く遊園地にいこう」
「はいっ」

花織はさりげなく太助の腕に自分の腕をからませる。
その背後に翔子の影があったことなどニ人が気付くはずもなかった……

遊園地についた二人はとりあえず軽い食事を取る事にし、軽食スタンドでシェイクとチーズバーガーを買い、空いているベンチに腰掛けた。
その近くにはサングラスをかけた翔子の姿もある。
翔子はチリドッグを頬張りながら二人の様子を窺っていた。

「……でぇ、あたし……んです……」
「……へぇ……だったのか」

休日の園内は家族連れで賑わっており、あまり良く聞き取る事が出来なかったが、どうやら一方的に花織が話し、太助が聞き役に回っているらしかった。

「……今ン所は大丈夫なようだな……」

翔子はチリドッグを食べ終えると包み紙を、狙いもつけずにごみ箱に投じる。
きれいな放物線を描いて包み紙はごみ箱に収まる。
物足りない翔子は、もう少し何か食べようと軽食スタンドに足を向けた。

「先輩、どれから乗りましょうか?」
「愛原の好きな奴でいいよ」
「……じゃあ、ジェットコースターにしましょう!」
「いきなりヘビーなところから攻めるんだな……」
「あれに乗らないと『遊園地に来たっ!』って気がしないじゃないですか」
「よし、じゃあジェットコースターにしよう」

ジェットコースター乗り場にて

ここのジェットコースターは世界最大の木製コースターで、最高90mの高さから一気に15mまで落下し、その後ニ回転再び90mの高さまで到達し、三回転にねじりが入り終了という強烈な最新鋭タイプでその名を「Niitakayama」という。
当然人気も高く、遠隔地からもこれが目当てでくる客も多い。
二人は行列の後ろに並ぶ。
待ち時間のお知らせ看板が出ていた。 

只今の待ち時間  約1時間
 
「これくらいなら待ってもいいですよね?」

花織が問いかけ太助がうなずく。
とはいうものの某T○Lとは違い、待ち時間を退屈させないような仕掛けがされているわけでもないので、太助は5分で飽きた。
横で花織が色々と話し掛けてくれなければ耐えられなかっただろう。
1時間後 ようやく順番がまわり太助たちはコースターに乗り込む。
よりによって先頭であった。

ガタンガタン

乗員の不安をあおるような音を立てながら機体はレールを昇っていく。

「おれ、この時間が一番苦手なんだよ」
「あたしもです」

花織は横に座る太助の手をキュっと握る。
最高地点まで昇るとけっこう風が強く全体的に軽く揺れていた。

「……けっこう怖いかもぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「!!」

太助が軽口を叩いている途中でコースターは下降を始める。
花織は声も出せなかった。
後は二人とも真っ白だった。

「……怖かったけど、面白かったぁ。ね、先輩」
「……あ、ああそうだね……」

太助はよろけ気味の歩調だ。

「先輩、大丈夫ですか?」
「……だいじょぶ、だいじょぶ」

あまり大丈夫そうではなかった。
二人は少し休む事にした。
太助がベンチに腰掛ける。
花織は近くのスタンドからソフトクリームを買ってきて太助に差し出し、自分も太助のすぐ隣に腰掛けた。

「はい、どーぞ」
「さんきゅ、愛原」
「次はもうちょっと普通のに乗りましょうね」
「賛成」
「じゃあ、観覧車にしましょうか?」 (なんといってもカップルの定番、観覧車よね)

二人きりの空間。
みつめあうお似合いのカップルはお互いの気持ちを理解して……

「愛原、どうしたんだ?」
「な、何でもないですぅ」

どうやら又花織は想像モードに入っていたらしい。

「よし、じゃあ観覧車に乗りに行こう」

観覧車にて

さっきのジェットコースターと違い、観覧車に乗る客は少なく二人はすんなりと乗る事が出来た。
約30分ぐらいかけてゆっくりと一回転する長時間タイプの観覧車で、その間ゴンドラは密室になる。

(これよ……これこそチャンスですぅ。絶対に今日こそ告白しますね七梨先輩)

閉じられた空間。
恋心を抱く少女とちょっと鈍感な少年。
否応無しに盛り上がるムード
やがて二人のシルエットは重なってゆき……

またもや花織は想像モードに入っていた。
告白するにしてもタイミングが重要だ。
ゴンドラはまだ昇りはじめて間もない。
一番てっぺんまで昇った時がチャンスだろう。

「あ、先輩。あたし達の街が見えますよぉ」

花織はそう言って、太助の方に身を乗り出す。

「あ……愛原、近づきすぎ……」
「別にいいじゃないですか」

そして、花織は太助のすぐ隣に座る。
二人ともそのまま何も話さず、ただ時間だけが過ぎていき、太助たちの乗るゴンドラは間もなく中腹あたりにさしかかろうとしていた。

(こんな時に観覧車が止まったりしたらシャレにならないよな)
(こんな時に観覧車が止まってくれたらなぁ)

恋愛物では定番の「遊園地で乗った観覧車が偶然止まってしまう」シチュエーションだ。
まぁ、そんな偶然が起こるはずもない……。

ガクン!

……大きな音と揺れをともなって、観覧車は止まってしまった。
やはりパターンというものは避けられないのか(^^;

「……止まっちゃったな」
「……先輩、あたし怖いです」(神様、ありがとうございます♪)
「だ、大丈夫さ。すぐに動くよ、きっと」

しかし、10分経っても20分経ってもゴンドラは動き出さない。
故障についてのアナウンスも何もない。
のんきな太助もさすがに不安になってきていた。
花織は太助の腕をきゅっとつかんで、少し振るえて見せた。

「大丈夫か? 愛原」
「……はい」(やっぱり先輩ってやさしいですぅ)

30分も経過したのに、観覧車は動き出そうともしない。
このままではらちがあかない。
花織は計画を実行に移す事にした。

「……先輩。こんな時に言うのは変かも知れないんですけど……」
「……ん、何だい?」

太助は花織を優しい眼差しで見つめる。
花織は頬が熱くなってくるのを感じていた。
やっぱり面と向かって告白するのは恥ずかしかった。
ましてや、このシチュエーションでは無理も無い。
でも、と花織はありったけの勇気をふりしぼる。

「……先輩。あたし先輩の事が好きです」 (あーん、どうしてこんなありきたりの事しか言えないのぉ!)
「私とお付き合いしてくださいっ」
「…………」

太助は何も答えない。

「……先輩が、シャオ先輩の事を好きなのはわかってます。……でも」
「……でも、あたしもシャオ先輩に負けないくらい先輩の事が好きなんです!」
「……愛原の気持ちは嬉しいけど、やっぱりそれは出来ないよ」
「七梨先輩っ!」

「……太助さまぁ」

シャオの声が聞こえたような気がした。

「……太助様。どこにいるんですかぁ?」

気のせいではないらしい。
太助は外を見まわす。
観覧車から少し離れた所にシャオはいた。
軒轅に乗って太助を探している。

「シャオ!」
「……シャオ先輩。どうしてここに?」

やがて太助たちのいるゴンドラに気付いたらしく、シャオが寄ってくる。
そして、ゴンドラの扉を開く。

「太助様! 大丈夫ですか?」
「ああ、何とも無いよシャオ」

花織は唖然として何も出来ない。

「花織さん」
「……え?」
「太助様は返してもらいますわ。さ、太助様帰りましょう」
「……そんな」
「じゃあ、愛原。悪いけど今日はもう帰るよ」

冷たく言うと太助は、シャオの後ろに乗り移る。
花織はただ……ただ信じられなかった。

「太助様。今日の夕飯は何がいいですか?」
「シャオの作る物なら、俺はなんでもいいよ」

楽しげに会話をするシャオと太助。
もう花織のことなど気にもしていない。

「……先輩! 待ってください!」
「どした? 愛原」
「……ひどすぎます」
「ひどいのは花織さん、あなたの方です」
「わたしがいない間に太助様を一人占めしようなんて……」

シャオがむっとした顔をして花織に詰め寄る。

「まぁ、いいじゃないか」
「……でも」
「シャオ」
「太助様がそうおっしゃるなら……」
「でも、シャオ。来てくれて嬉しかったよ」
「私は当たり前のことをしているだけです」

またも花織を除けて二人の世界に入るシャオと太助。

「……先輩」
「ああ、愛原気をつけて帰れよ。よし行こう、シャオ」
「はい、太助様」

二人を乗せた軒轅はゴンドラから離れる。
花織は一人取り残される。
花織は声の限りに叫んだ。

「七梨先輩っ!!」

花織は目の前が真っ暗になった。
 
 
 
 
 
 

「七梨先輩っ!」
「……どうした? 愛原」

気付くと目の前に太助がいた。
花織はあわてて辺りを見まわす。
見たことの無い部屋。
自分はベッドに横たわり、横に太助が座っている。
薬品の入った棚。
そして窓が一つ。
夕日が差し込んでいた。

「……夢だったんだぁ」

花織は内心安堵し、それでも夢の中とはいえ太助に冷たくされた事を思い出し、軽くにらむように太助を見る。
目元には涙が少し残っている。

「どした、怖い夢でもみた?」
「いいえ、何でもありません」
「あの、あたしどうしちゃったんですか?」
「ああ、ジェットコースターに乗ってる内に気絶しちゃったんだよ」
「……そうだったんですか。あの先輩、ずっと付いててくれたんですか?」
「うん、それに愛原が手を放してくれなかったから……」

花織はやっと自分がまだ太助の手を握ったままな事に気付いた。
太助は少し顔を赤らめている。
花織は何だかおかしくて、クスっと笑った。

「……先輩、すいませんでした。せっかく遊園地に来たのに、あたしのせいで……もう夕方になっちゃって」
「なに言ってんだよ、充分楽しかったさ。それに愛原が何とも無くて良かったよ。ずっと眠ったままだったから……心配したんだぜ」
「ありがとうございます。先輩!」

花織は心が満たされていくのを感じた。
そして花織は太助に抱き付いた。

「お……おい、愛原」
「お願いします。もう少しこのままで居させてください」
「……わかった」
「……先輩」
「ん?」
「もう一つだけお願いしていいですか?」
「俺にできることならね」
「……一度だけでいいから、あたしの事を花織って名前で呼んでくれませんか?」

それは花織の密かな夢。
一度、一度でもいいから太助に……

「……なんか照れくさいな」
「お願いします、先輩」

太助はゴクリと生唾を飲み込んだ。
別に何でもないことのはずなのに妙に緊張する。

「か……花織」
「なんですか先輩」(はぁぁ、花織幸せですぅ)
「体はなんともないか? 気分とか」
「……大丈夫です」
「そっか、じゃあそろそろ帰ろう」

太助はそういうとかがみ込んで花織に背を向ける。

「おぶってやるよ、花織」
「……はい」

花織は素直に従い、太助の背に身を預ける。
太助の背は大きく暖かだった。
花織はぎゅっと抱きしめて想う。

(やっぱり先輩はやさしいです。あたしの夢なんかよりもずっと……でもいつか、その優しさを花織だけのものにして見せます。待っててくださいね、先輩)

「愛原、うちで晩飯食ってけよ」
「いいんですか?」
「賑やかな方がいいだろ?」

太助はもう花織の事を名前で呼びはしなかった。
花織は少し寂しかった。
でも、それでも良かった。

エピローグにつづく



やっぱりいいわけ

花織ちゃんが別人みたくなってしまいました(冷や汗)
花織ちゃんの話はむずかしいです。
どなたか花織ちゃんの話を書くときはご注意を……
紀柳の話を書いたときにはデータが少なくて大変だとおもってましたが、既にみなさんの中でキャライメージが出来上がってる娘の方が難しかったです。
一応、シリーズ物なのでこの日の話はまだ続きます。
皆様の苦情と嫌がらせのメールボムをお待ちしてます。
それではおそまつさまでしたm(_ _)m

あどれす:aiida@mxa.usen-net.or.jp 


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